「ここには入っちゃダメ。」
幼い頃から母にそう言われていた。家の奥にある小さな部屋。扉はいつも閉ざされ、窓もない。壁紙は黒く、まるで空間ごと切り取られたような場所。母は頑なにその部屋を避け、掃除すらしている様子がなかった。
「何があるの?」と聞いても、母は決まって「何もない」と答えた。けれど、夜になるとその部屋から時折、誰かがすすり泣く声が聞こえた。
私はいつしか、その部屋の存在を意識しなくなった。いや、意識しないようにした、と言ったほうが正しいのかもしれない。成長するにつれ、家族の間でもその部屋の話はタブーになり、いつしか誰も触れなくなった。
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Source: 哲学ニュースnwk