McDonald’s Netherlands 

 出始めのころは興味をもって受け入れられていた生成AI映像だが、洪水のように溢れ出ている今、もはや視聴者はそれに嫌悪感すら示し始めている。マクドナルドはその変化に気が付かなかったようだ。

 2025年12月6日、マクドナルド・オランダは、現実と非現実の狭間にあるような、不思議な違和感を覚えさせるAI生成技術を使用したクリスマス用の広告動画をネット上に公開した。

 すると「不気味すぎる」、「最悪のクリスマスだ」と厳しい声が上がり、動画は公開からわずか3日後に削除される事態となった。

 マクドナルド側は、AIによる手抜き映像ではなく、制作チームが7週間もの時間をかけ、数千回もの試行錯誤を経て作り上げた作品だったと説明したが、人間の影の努力は報われず、拒絶反応を引き起こしてしまったようだ。

マクドナルドも直面、AI広告に対する冷ややかな反応

 この広告は、オランダの広告代理店「TBWANeboko」と、アメリカの制作会社「The Sweetshop」によって制作され、2025年12月6日にオランダのマクドナルドのYouTubeチャンネルで公開された。

 45秒間の動画の内容は、クリスマスの休暇中に起こりうるトラブルを描いたものだ。テーマは「一年で最もひどい時期(the most terrible time of the year)」。

 クリスマスのストレスフルな側面をあえて強調し、そんな時こそマクドナルドで過ごそう、というメッセージを込めていたようだ。

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 しかし、その意図は映像の不気味さによって打ち消されてしまった。動画に登場する人物や風景は、AI特有のゴムのような質感で、どこか生気がない。

 これが、ロボットやCGが人間に近づきすぎると嫌悪感を抱く「不気味の谷」現象を引き起こしてしまった。

 視聴者から「今年見た中で最悪の広告」というコメントに加え、「雑な手抜き仕事」と、つぎはぎだらけの編集に対する批判が殺到したのだ。 

 現在は批判を受けこの動画は削除されている。

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「俳優もカメラもいない」雇用への不安

 批判の矛先は、映像のクオリティだけでなく、AIが人間の仕事を奪うのではないかという懸念も浮き彫りになった。

 SNSでは、あるユーザーから「俳優もいない、カメラチームもいない……これが映画制作の未来へようこそってわけか。最悪だね」との声が上がった。

 生成AIを使えば、通常なら1年近くかかる大規模なクリスマスキャンペーンを、はるかに短い期間で制作できる可能性がある。

 企業にとっては魅力的なコストダウンと効率化だが、クリエイターや現場のスタッフにとっては、自分たちの職が脅かされる恐怖そのものとして映ったようだ。

「手抜き」ではない? 7週間、数千テイクを重ねた苦労

 だがこの映像はすべてAIに丸投げして作られた「手抜き」ではなかった。

 制作会社のCEO、メラニー・ブリッジ氏は「AIはあくまでも道具として使用しただけで、制作プロセスそのものは映画作りと同じくらい情熱と時間を注いだものだ」と反論している。

 スタッフは7週間、ほとんど寝ずに作業を続けたという。AIに数千ものテイクを生成させ、それらを人間が選び抜き、緻密に編集して作り上げたのだ。

 人間が膨大な時間と労力をかけて編集したものが、皮肉にも「不気味な世界観」を構築してしまったことになる。

 制作側は心血を注いだ自信作だったはずだが、その熱意と方向性が、視聴者の感性と残酷なまでにすれ違ってしまったようだ。 

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マクドナルドの公式声明「重要な学びとなった」

 騒動を受け、オランダのマクドナルドは12月9日に動画を削除(取り下げ)した。BBCニュースに寄せられた声明の中で、同社は次のように述べている。

この動画は、ホリデーシーズンに起こりうるストレスの多い瞬間を表現することを意図していましたが、削除することを決定しました。

この出来事は、私たちがAIの効果的な使用を模索していく上で、重要な学びとなりました(マクドナルド・オランダ)

 彼らはこの失敗を認めつつも、AIの活用自体を否定したわけではないようだ。あくまで「効果的な使い方」を学ぶプロセスの一つとして位置づけている。

企業のAI生成広告の在り方が問われる時代に

 実は、クリスマス商戦でAI広告を導入しているのはマクドナルドだけではない。コカ・コーラもまた、生成AIを活用した広告を公開しており、その評価は芳しくない。

 不自然な描写や「グリッチ(映像の乱れ)」が指摘されており、AI技術の欠点を浮き彫りにする形となってしまった。

 かつては温かみのある人間や動物たちのドラマで消費者の心を掴んできた大手ブランドがこぞってAIに手を出した結果、「魂のない映像」と視聴者から拒絶されてしまっている。

 とはいえ、AI生成技術の発展は目覚ましい。来年あたりには全く違和感のないAI広告が展開されるようになるかもしれないが、現実と虚像の区別がつかないような混沌とした世界は、それはそれで恐怖なのかもしれない。

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この記事のカテゴリ:サイエンス&テクノロジー / サブカル・アート

Source: カラパイア